しかし人は有事のとき、往々にしてパニックに陥りやすく、通常の精神状態のそれと全く異なる状態になります。対応次第では、危機を好転できるケースもありますが、実際のところ、有事におけるコミュニケーションには、心理学やマネジメント分野の知識などがなければ適切に対応することが難しいものです。そこで今回は、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が、コミュニケーション分野のエビデンスなどに基づき開発した、CERCプログラム(通称「サーク」)をベースに、組織のリーダーが、有事に効果的にコミュニケーションできるために、知っておくと良いと思うポイントについてお伝えしたいと思います。
クライシス・コミュニケーションにおけるスポークスパーソンの役割
クライシス・コミュニケーション(危機管理広報)における、社内外とのコミュニケーション窓口となるスポークスパーソンは、その組織の代表であることが好ましく、実際トップが会見に臨むことが通例となってきました。
平時であれば、スポークスパーソンに必要な要件は、
・そのテーマについてよく知っていること。
・そのテーマについて明確に、自信を持って話すことができる。
などで、広報担当者などが対応することが多いと思いますが、有事になると一気に難易度があがります。有事のスポークスパーソンは、メディアや顧客を含むステークホルダーが望む、あるいは必要とする情報を伝える役割があるからです。そしてその情報は、信頼を築き、危害のレベルを軽減するものでなければなりません。したがって、コミュニケーション担当者や広報担当者は、これらの目標を達成できるよう、平時より、スポークスパーソンが有事に、次のようなさまざまな質問に答えられるよう準備する必要があります。
・事件は何であり、その規模はどの程度か。(誰が、何を、どこで、いつ、なぜ、どのように)?
・ステークホルダーの安全を脅かすリスクは何か?
・責任の所在は誰か?また対応するために何をするのか?
クライシス・コミュニケーション戦略で押さえておきたいポイント
有事のコミュニケーション戦略では、次のポイントを押さえることが重要となります。
・適切なレベルの関心と共感を確立する
・冷静さを保ちつつ、不確実性を認識し、過剰に安心させるようなことはしない
・一貫した対応を示す
・オープンで透明性のある対応をする
そして記者会見に臨むスポークスパーソンは、単に作成された文章を読むだけではなく、これらのポイントを念頭に、メッセージを伝えていく役割を担っています。もしスポークスパーソンが伝えたいメッセージや、その背景となる目的を十分に理解していなければ、自信に満ちたスタンスをとり、信憑性や信頼を伝えることが難しくなります。
良いスポークスパーソンの条件とは?
模擬記者会見では、スポークスパーソンが、「出来る限り落ち着いた姿勢で、自分の言葉でメッセージを伝える」ことができるように、トレーニングを行なっていきます。聴衆は嘘を見抜きます。どんな組織にもアイデンティティがあると思いますが、スポークスパーソンは、そのアイデンティティを体現するように努めなければなりません。
かといって、実際にスポークスパーソンが、理想的な良い資質をすべて備えることは難しいものです。しかし、悪い資質を理解することは難しいことではありません。現代は、相次ぐ不祥事により毎週のように記者会見が行われています。他社の記者会見を参考に、自分ならどんな風に伝えるかシュミレーションすることもサポートとなります。
危機管理広報担当者が準備のために押さえておきたいポイント
コミュニケーション担当者は、危機が発生する前に、クライシス・コミュニケーションのスポークスパーソンを特定し、次のようなポイントを押さえて、あらかじめ計画を策定しておきましょう。
・危機が発生したらすぐに、緊急記者会見に臨むスポークスパーソンをアサインできるようにしておきましょう。誰が責任者なのか、そして被害者に対して真摯に対応することを説明できるようにします。同時に、思いやりと共感を示すことが何よりも重要です。
・透明性を確保する。危機について分かっていること、分かっていないことを率直に話し、正確な情報を提供できるようにします。
・憶測や決めつけ、後で撤回しなければならないような早まった判断はしないように気をつけましょう。
・危機に関する最新情報を定期的に提供するなど、メディアがアクセスしやすく、できる限りニーズに応えるよう対応しましょう。
・ひとり広報であれ、危機対応を調整する複数の組織間であれ、統一したメッセージを発信しましょう。
・危機に関する事実や情報(何が行われているのかを含む)を伝えると同時に、思いやりや共感も伝えて、組織の評判を維持することも重要です。
では具体的にどんなメッセージを準備すればいいのでしょうか?
次回は、コミュニケーションを通じて、信頼と信用を確立するために必要な要素や、スポークスパーソンがやりがちな失敗例などにについて、お伝えしたいと思います。
参照元:CERC: Spokesperson
https://emergency.cdc.gov/cerc/ppt/CERC_Spokesperson.pdf